SL系脚本、物語
2007年09月16日
■Fly ~Session 1~ ■ 37
彼は確かにディスプレイの向こう側にいる。一人のアバターとして。普通にチャットも出来るし、どこのSIMにだって、自身の意思でテレポートすることもできる。だから周囲の人は気づかない。彼が特別な存在であることを。彼には「現実世界」が無い。だからリアルな私を見ることは出来ない。リアルな街も、リアルな人も、そして愛する人も。
無限に広がる「仮想世界」で、私はあなたと再会するのでしょうか?いつの日か、どこかにいるあなたに会いに行きたい。それがたとえ、一方通行の再会だとしても。
「仮想世界」と「現実世界」の境界面。ボクから現実側の君を見ることが出来ない。
Session 1 ワタシのキオク
薄暗い部屋。
無限に広がる「仮想世界」で、私はあなたと再会するのでしょうか?いつの日か、どこかにいるあなたに会いに行きたい。それがたとえ、一方通行の再会だとしても。
「仮想世界」と「現実世界」の境界面。ボクから現実側の君を見ることが出来ない。
Session 1 ワタシのキオク
薄暗い部屋。
ベッドに横たわっている人物の名前はアイコ。アイコは目を瞑っている。頭には多くの電極が張られており、傍にはコンピューターが一台。USB接続されたキーボードを操る人影。電子音が鳴り響き、電極が美しく光を放っている。
人影は一つ大きな呼気を吐き出すと、椅子から立ち上がり、壁のスイッチをタッチした。蛍光灯が部屋を照らす。人影は古めかしい白衣を着た女性であることが分かる。手際よく、アイコの頭部から電極を取り去っていく。最後の一つが剥がされたのをきっかけにアイコが起き上がる。
アイコはその人物を「所長」と呼んだ。
アイコ ・・・所長。脳みそが痒い。
所長 気のせいよ。
アイコ でも・・・。ところで私のキオクはどうなりましたか?
所長 もうちょっと時間をくれる?
所長は作業を再開した。
所長 今までの作業で、あなたの脳をスキャンしたの。あと少しステップが必要だから、ちょっと待って。
アイコは黙ってうなずいた。
所長 あなた結婚しているの?
アイコ え?どうして。
所長 それ・・・、指輪。
アイコ ・・・ああ。
左手の薬指にはめた指輪を何気なく蛍光灯にかざした。一目見ただけでもそれが高価なものでないことはすぐに分かる。
所長 結婚してから何年?
アイコ これ、結婚指輪じゃないんです。一応、彼からのプレゼントですが・・・
所長 恋人か。いいなぁ。
アイコ ううん。実は、もう3年も前に・・・
所長 あ、分かれちゃったのか・・・ゴメン。
アイコ 分かれたと言うか・・・もう、この世にはいないんです。
間
所長 ・・・辛いことを思い出させてしまったかしら。
アイコ いいえ。大丈夫です。もう昔の話しなんだから。
所長 新しいパートナーは?
アイコ ・・・彼がどうしても忘れられなくて。・・・それに私モテないし。可笑しいですよね、他はすぐに忘れちゃうのに。ユージだけはいつまでも忘れられない。
稚拙なフォローを入れても、無理に話題を変えても不自然なのは分かっていた。それはアイコにも同じ。所長は黙って作業を進めることにした。
また暫くの間、空間は電子音とキータッチの音に占領された。
所長 さあ、できた。
所長はディスプレイを見るように促した。表示されているほとんどのウインドウはアイコには到底理解できない、複雑なプログラムやグラフが表示されていた。が、一つだけ、見慣れた景色。セカンドライフの中にアイコのアバターが佇んでいた。
アイコ とくに変わった様子は無いみたい・・・いつも通りですよね。
所長 左腕のところをよく見て。
アイコ ・・・腕時計ですか?何かが光っていますね。
所長 その腕時計には私の書いたスクリプトが登録されているの。さっきあなたから抽出したキオクを研究所のデーターベースに登録しておいたのね。で、そのスクリプトがHTTP通信で・・・
アイコの顔には明らかに困惑の表情が見て取れた。
所長 乱暴な表現をすれば、あなたのアバターは、あなたのキオクの全てを検索できるようになったってわけ。
アイコ キオクの全て?
所長 キオクの多くは潜在意識の中に残されているの。脳細胞にはイメージできないほどたくさんの情報が格納されているのね。で、その脳細胞は鎖みたいなもので関連付けされている。人は何かを思い出すときに、その鎖を手繰ってキオクを遡っているんだけど・・・つまり、その・・・あなたはその指輪を見たときに、彼を思い出すよね。
例が良くなかったのかもしれない。
所長 すごく昔のキオクはその鎖が途切れてしまっていて、だから、「忘れてしまった」と感じるのよ。
アイコ じゃあ、さっき抽出したキオクっていうのは・・・
所長 あなたが忘れてしまったと思っているキオクも含めて、全部。
所長は今まで自分がかけていたヘッドセットをアイコに渡した。
所長 説明するよりも試したほうがいいわ。マイクに向かって、アバターに問いかけてみて。
アイコは不慣れな手つきでマイクの位置を調節している。
アイコ うーん。いきなりそんなこと言われても・・・
所長 何でもいいのよ。「小さいころに飼っていたペットの名前は?」とか「初めて買ったCDのタイトルは?」とか。
アイコ ・・・じゃあ・・・ユージ・・・そうだ。ユージとの思い出。
直感的に、そのリクエストには何らかのリスクが感じられた。
所長 いいの?
アイコの視線は完全にディスプレイと向かい合っていた。所長の声は届いていないだろう。
アイコ 彼と行った最後のデートのキオクをお願い。
ここからはアイコとアバターだけの世界。もう誰にも止めることは出来ない。
「キオクROM NO.0002 小暮藍子さんと認識しました・・・」
アイコの要求を感知したプログラムはおびただしい量のメッセージの出力を始めた。やがてアウトプットは収束し、「画像データとしてキオクを再生します。」という一行で締めくくられていた。
キオクの描画が始まった。
アバターの左腕から、新たなウインドウが出現。
そこには抽出されたキオクから画像データとして再構成された懐かしい思いでの数々が徐々に浮かび上がっていく・・・そういう想定だった。
アイコ ・・・ユージ。
まさに、あとコンマ数秒で完全に表示されようとしていた時・・・
>>Goto Session 2
人影は一つ大きな呼気を吐き出すと、椅子から立ち上がり、壁のスイッチをタッチした。蛍光灯が部屋を照らす。人影は古めかしい白衣を着た女性であることが分かる。手際よく、アイコの頭部から電極を取り去っていく。最後の一つが剥がされたのをきっかけにアイコが起き上がる。
アイコはその人物を「所長」と呼んだ。
アイコ ・・・所長。脳みそが痒い。
所長 気のせいよ。
アイコ でも・・・。ところで私のキオクはどうなりましたか?
所長 もうちょっと時間をくれる?
所長は作業を再開した。
所長 今までの作業で、あなたの脳をスキャンしたの。あと少しステップが必要だから、ちょっと待って。
アイコは黙ってうなずいた。
所長 あなた結婚しているの?
アイコ え?どうして。
所長 それ・・・、指輪。
アイコ ・・・ああ。
左手の薬指にはめた指輪を何気なく蛍光灯にかざした。一目見ただけでもそれが高価なものでないことはすぐに分かる。
所長 結婚してから何年?
アイコ これ、結婚指輪じゃないんです。一応、彼からのプレゼントですが・・・
所長 恋人か。いいなぁ。
アイコ ううん。実は、もう3年も前に・・・
所長 あ、分かれちゃったのか・・・ゴメン。
アイコ 分かれたと言うか・・・もう、この世にはいないんです。
間
所長 ・・・辛いことを思い出させてしまったかしら。
アイコ いいえ。大丈夫です。もう昔の話しなんだから。
所長 新しいパートナーは?
アイコ ・・・彼がどうしても忘れられなくて。・・・それに私モテないし。可笑しいですよね、他はすぐに忘れちゃうのに。ユージだけはいつまでも忘れられない。
稚拙なフォローを入れても、無理に話題を変えても不自然なのは分かっていた。それはアイコにも同じ。所長は黙って作業を進めることにした。
また暫くの間、空間は電子音とキータッチの音に占領された。
所長 さあ、できた。
所長はディスプレイを見るように促した。表示されているほとんどのウインドウはアイコには到底理解できない、複雑なプログラムやグラフが表示されていた。が、一つだけ、見慣れた景色。セカンドライフの中にアイコのアバターが佇んでいた。
アイコ とくに変わった様子は無いみたい・・・いつも通りですよね。
所長 左腕のところをよく見て。
アイコ ・・・腕時計ですか?何かが光っていますね。
所長 その腕時計には私の書いたスクリプトが登録されているの。さっきあなたから抽出したキオクを研究所のデーターベースに登録しておいたのね。で、そのスクリプトがHTTP通信で・・・
アイコの顔には明らかに困惑の表情が見て取れた。
所長 乱暴な表現をすれば、あなたのアバターは、あなたのキオクの全てを検索できるようになったってわけ。
アイコ キオクの全て?
所長 キオクの多くは潜在意識の中に残されているの。脳細胞にはイメージできないほどたくさんの情報が格納されているのね。で、その脳細胞は鎖みたいなもので関連付けされている。人は何かを思い出すときに、その鎖を手繰ってキオクを遡っているんだけど・・・つまり、その・・・あなたはその指輪を見たときに、彼を思い出すよね。
例が良くなかったのかもしれない。
所長 すごく昔のキオクはその鎖が途切れてしまっていて、だから、「忘れてしまった」と感じるのよ。
アイコ じゃあ、さっき抽出したキオクっていうのは・・・
所長 あなたが忘れてしまったと思っているキオクも含めて、全部。
所長は今まで自分がかけていたヘッドセットをアイコに渡した。
所長 説明するよりも試したほうがいいわ。マイクに向かって、アバターに問いかけてみて。
アイコは不慣れな手つきでマイクの位置を調節している。
アイコ うーん。いきなりそんなこと言われても・・・
所長 何でもいいのよ。「小さいころに飼っていたペットの名前は?」とか「初めて買ったCDのタイトルは?」とか。
アイコ ・・・じゃあ・・・ユージ・・・そうだ。ユージとの思い出。
直感的に、そのリクエストには何らかのリスクが感じられた。
所長 いいの?
アイコの視線は完全にディスプレイと向かい合っていた。所長の声は届いていないだろう。
アイコ 彼と行った最後のデートのキオクをお願い。
ここからはアイコとアバターだけの世界。もう誰にも止めることは出来ない。
「キオクROM NO.0002 小暮藍子さんと認識しました・・・」
アイコの要求を感知したプログラムはおびただしい量のメッセージの出力を始めた。やがてアウトプットは収束し、「画像データとしてキオクを再生します。」という一行で締めくくられていた。
キオクの描画が始まった。
アバターの左腕から、新たなウインドウが出現。
そこには抽出されたキオクから画像データとして再構成された懐かしい思いでの数々が徐々に浮かび上がっていく・・・そういう想定だった。
アイコ ・・・ユージ。
まさに、あとコンマ数秒で完全に表示されようとしていた時・・・
>>Goto Session 2
フィクションです。
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